【蛋白漏出性腸症(PLE)】 2025.1.10.
当院での蛋白漏出性腸症の来院が急増しています。
ステロイド剤や免疫抑制剤などの長期投与による副作用、もしくはどの西洋治療も無効で超低アルブミン血症や腹水貯留の来院が多い状況です。
若くして命を落とす事もあり心を痛めています。このブログがかかりつけ医様の治療方針に役立つことを願っています。
当院では、まず低アルブミン血症の原因が腸、腎、肝など、いずれに原因があるのかを確認します。
多臓器に及ぶ場合はアプローチが異なるので、このブログでは腸症単独の場合の治療アプローチ法をご紹介します。
2024年版のPLE分類案で見ると、当院では青字の治療分類となります。
Animals,2024,14,681.https://doi.org/10.3390/ani14050681 (青字は当院の書き込みです)
実際は数種類~全部が関与して蛋白漏出性腸症の病態に至っていると見ています。
つまり、胃腸虚弱、腸内細菌叢の乱れ、胃腸のアレルギー反応、免疫過剰、ストレスによる交感神経過剰などを配慮し、プロバイオ・プレバイオティックスと食事調整は必ずで、さらに各ペットにより消化吸収機能改善、抗炎症、抗アレルギー、免疫調整、ストレス緩和、自律神経を整える、水分代謝改善などの漢方薬を調合しています。中医学的には、脾胃虚弱、脾気不固、脾虚湿滞、風熱鬱結、肝脾不和などの病態が多いです。血流改善はステロイド減量と共に改善するのと、活血薬は胃腸に負担のある漢方薬が多いので使用していないです。
当院の低アルブミン血症と下痢を伴う蛋白漏出性腸症(病理検査なしも含む)の犬25例の漢方治療(一部で食事療法併用)を集計した結果では、76%が完治~改善でした。また、ステロイド剤と免疫抑制剤を服用20例の70%が中止と減量、服用なしの5例中4例が著効~改善の結果でした。カルテを見直すと、漢方薬を長く継続するほどステロイド剤と免疫抑制剤の減量~中止に至る、PLE末期で衰弱や腸リンパ腫では一時期改善のみで亡くなるという結果になりました。「集計」は下記にあります。
下痢をすると低アルブミン血症になる、慢性腸症や蛋白漏出性腸症がリンパ腫へ移行する原因の一つに長期のステロイド剤や免疫抑制剤の服用がある疑いを常々感じていることも付け加えさせて下さい。PLEの西洋医学エビデンスはまだまだ不足していますので、病態生理を描きながらマニュアル以外の新しい西洋学的アプローチも必要かと考えています。それと獣医療での栄養学分野の充実が蛋白漏出性腸症の治療に必須と思われます。人医療の管理栄養士資格者3人(うち2人はペット管理栄養士資格も取得)が監修した「蛋白漏出性腸症の食事療法」も下記にあります。
参考の症例紹介ブログは、「せんちゃんの蛋白漏出性腸症疑いとステロイド糖尿病の漢方治療」「ココちゃんの蛋白漏出性腸症と蛋白漏出性腎症の漢方治療」「ティアちゃんの脳梗塞、蛋白漏出性腸症、咳の漢方鍼灸治療」をご覧ください。
★蛋白漏出性腸症の犬の漢方薬の効果:25例 ~2025.12.5
著効(便正常・アルブミン値正常値):9例(36%)
ステロイド・免疫抑制剤の服用経験なし:3例
中止:4例
減量:2例
有効(便正常・アルブミン値改善):5例(20%)
中止:1例
減量:3例
同量継続:1例
やや有効(便改善傾向・アルブミン値変化なし):5例(20%)
服用経験なし:1例
中止:1例
減量:2例(うち1例は腸リンパ腫)
同量継続:1例
~上記で、76%でした~
変化なし:5例(20%)
服用経験なし:1例
減量:2例
同量継続:2例
悪化:1例(4%)
同量継続:1例
★漢方治療でステロイド剤・免疫抑制剤の服用量の変化の集計:20例 ~2025.12.5
中止:6例(30%)
減量:8例(40%)
~上記で70%でした~
同量継続:6例(30%)
~20例とは別で服用なしの5例中の4例は著効~改善でした~
【蛋白漏出性腸症と食事】
犬では、ほとんどの場合は特発性であるため、腸管からの蛋白漏出を減少させ、腹水や浮腫を軽減させることが治療の目的となります(1)。 脂肪とくに長鎖脂肪酸によってリンパ管の拡張が助長されるため、蛋白漏出を軽減させるためには、犬の論文では長鎖脂肪酸を制限した低脂肪食(脂肪含有量2g/100kcal)または超低脂肪食(脂肪含有量0.35g/100kcal)を与えることが推奨されています(2)。 具体的には、タンパク源として鶏ササミ肉や七面鳥、炭水化物源として茹でたジャガイモや白米がよく使われます。しかし、使われる食材には偏りがあり、ビタミンDやカルシウムなどが不足してしまう恐れがあるため、サプリメントの添加も必要になります。
例えば、蛋白源では鶏ササミ肉以外に「鶏もも」、炭水化物源ではジャガイモ以外に「さつまいも」など、同分類の食材でローテーションすることを推奨しています。これにより、食べ飽きをさせないことや、同じ食材の食べすぎでアレルゲンとなるリスクを下げることが可能ではないかと考えています。
蛋白質に関しては、炎症に対し低アレルゲン食を摂り入れることも選択肢の一つと考えられています(3)(4)。低アルブミン血症により高蛋白食を推奨されがちですが、そもそも腸の消化吸収機能の低下が原因の1つと考えられているため、いくら高蛋白質の食事を与えても吸収されにくいかと考えています。
脂質に関しては、何らかの原因で腸壁内のリンパ管に詰まってリンパ管が拡張し、腸絨毛が損傷され、消化吸収機能が低下や蛋白など漏出する原因の1つだと考えています。よって、腸絨毛の回復や詰まりを改善させるため低脂肪食が推奨されていると考えています。
つまり、バランスの良い食事で、腸に負担の少ない高消化性かつ低脂肪の食事が望ましいと考えています。
また、ドッグフードの添加物によってアレルギーのような炎症反応が出やすいと考えているため、手作り食の方が望ましいと考えています。当院では完全手作り食に変えて回復した犬も数例います。
(1) 大野耕一:嘔吐・下痢と食物との関連性について、ペット栄養学会誌13(2)69-73、2010
(2) 石岡克己:犬と猫における消化器疾患と栄養、ペット栄養学会誌24(2)、120-127、2021
(3) 亘敏広:PEL(リンパ管拡張症)の食事管理、ペット栄養学会誌18、17-18、2015
(4) 福島健次郎:嘔吐・下痢の食事管理(消化器疾患について)、ペット栄養学会誌16(2)84-88、2013